649人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、その前肢が母親の首に振り下ろされることはなかった。
『バチンッ』という肉が爆ぜるような音と共に、スターサバイバーの身体が吹き飛んだのだ。その個体は本日二度目、建物を突き破る体験をした。
その一瞬で、長男はある存在の腕の中に保護されていた。
「わあお」と、声を枯らした息子の感嘆の声が聞こえた。息子は頭上を見上げていた。
母親には何が起きたのかわからなかったが、目の前に冗談のような影があった。
僅かな星明かりによって浮かんだのは、丸い大きな顔と、絵に描いたような丸い手。それにマントも羽織っている。
「あなた……?」
「……ああ」
本人も不思議そうに自分の身体を見つめていた。
その姿は、幼児番組向けのヒーローキャラクターにそっくりだった。まるでマンガやアニメから飛び出したようなカラフルな見た目で、着ぐるみを着ているようだった。
直後「アッタ! アッタ!」という甲高い声と共に、スタサバイバーが猛接近して母親を襲った。
「ママ!」という娘の悲鳴の直後、母親の姿にも異変が起きた。
彼女の姿もまた、着ぐるみのヒーローとなり、気がつくとスターサバイバーの左頭部に拳をめり込ませていた。
その威力は凄まじく、とうとうスターサバイバーの外殻は粉々になり、卵を握りつぶしたように、体液が垂れ流れた。
母親は二人の子を抱き締めると走った。さきほどまで、一人抱っこするのも重くてやっとだったが、今では驚くほど身が軽く、信じられないほどす速く動けた。
子どもを守りつつ、肩が壁に当たると、いとも簡単に壁が壊れ、彼女は外に避難した。
父親はその場に残り、スターサバイバーの意識をそらすオトリ役を買った。
最初のコメントを投稿しよう!