第五話 6と6・5のつるぎ

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稲光(いなびかり)黒雲(くろくも)を裂く。いつの間にか、月は隠れ、辺りは暗闇に包まれていた。 雨粒が、ヤトゥリバの素顔にかかる音がハッキリと聞こえた。 「ヤトゥリバたち……最後の……つぐない」 その視線は虚ろながら、しづくに真っ直ぐに、注がれていた。 「苦しめたかった……自分を……君と接して」 ハロウには理解できなかったが、しづくにはわかった。その言葉は、敢えて人間の姿でしづくに揚げ菓子を渡した理由についてだった。 ヤトゥリバはつるぎの誰よりも子どもを愛した。 子を持つ親として、我が子だけでなく、すべての子どもを愛した。 つるぎとして敢えて汚い仕事をした。それは純真な責任感があってこそだった。 ヤトゥリバはそれから人類を裏切り、子どもを狩る存在となるが、その痛みから逃げなかった。 避けることも出来たが、自身を罰するようにして向き合ったのだ。 ハロウと戦う直前、しづくに揚げ菓子を渡したのは、その愚直な心境の発露であり、自身への戒めだった。 そしてそんな大人の複雑な心境に加え、もう一つ、簡単で優しい理由があった。 「お腹……空かせてんのに……さらうのは酷だろ……」 誰に訊かれたわけでもないが、彼の脳裏に残った、強烈な意志が言葉として溢れた。 恐らく、それを反芻して行動に至ったのだろう。 「こんな世界じゃなければ……立派なお父さんだったんだ」 思わず出たしづくの言葉だった。 しかし言われた本人はというと、首から力が抜け、その瞳は一点を見つめるだけになっていた。 七つのつるぎの一角、悪夢とよばれたヤトゥリバは、ハロウとしづくが見守るなか、静かに旅立っていた。  
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