649人が本棚に入れています
本棚に追加
そしてしづくは、つまらなそうに、絵本を開く。
ハロウは言葉をぐっと飲み込んで、間もなく、マダムと共にしづくの部屋を後にした。
──ハロウは、1階にあるキッチンに立った。 窓の向こうには広々とした芝生の庭とその向こうに、背の高い杉の木の林が見える。
日差しは木々によって遮られ、電灯もついていない。キッチンは薄暗かった。
洋風のアイランド型のキッチンの向こうに、分厚い本を持ったマダムが座っている。
ハロウは彼女のことをマダムと呼び、しづくは「ママ」と呼んだ。
彼女の名は、いづみ。白衣を着た五十代の女性で、スポーツカーに使われるような鮮やかな赤のラインが入ったメガネをかけていた。
くたびれた赤い毛髪を簡単に結び、化粧はしていないが、唇はルージュを引いたように赤かった。
彼女は精神鑑定を行うドクターのように、木製の丸イスに座り、足を組み、英字が並んだ脳科学についての本に視線を落としていた。
「……あの、マダム。どうしてハロウは、しづくと会っちゃいけないんですか?」
ハロウが恐る恐るそう訊いた。
マダムは、ぎろりとした上目遣いをハロウに向けて、確認するように言った。
「……しづくは人類最後の子ども」
「はい」
とハロウが頷く。
最初のコメントを投稿しよう!