第一話 血濡れた勇者

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「あなたの頭でも、それは理解しているでしょう?」 「はい……」 次にマダムは、暗い天井を指差した。 「ここはしづくの力で、外界からは認識できない隠れ家。 外の世界は異星人に侵略され、各国のどの機関も機能しなくなった地獄世界。おわかり?」 マダムは次に、棚に置かれた紙の束を指差して、ポツリと言った。 「現在は、昭和74年」 それは手書きの書類で、文明の停滞を物語っていた。 彼女は、書類の不吉な文章をなぞった。 【昭和59年の7月7日、七夕。  後の〝破滅の七夕〟と呼ばれた日。  ロサンゼルス・オリンピックを控えた世界で、突然、地球に無数の地球外生命体がやって来て、破壊の限りを尽くした。  その事件によって日本の元号は昭和で止まった。    だが同時に、対抗する力も生まれた。  全世界で〝宇宙でも戦える英雄(ヒーロー)〟が誕生したのだ。】 マダムは唇を舌で舐めて、低い声で恨めしそうに「けどね」と言って、こう吐き捨てた。 「正義は負けて、地球は宇宙人に奪われてしまいました」  
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