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「ごめん、ごめんよう、しづく」
彼は数字が苦手で、思考が遅い。
たどたどしい喋り方は、せっかちなマダムをイライラさせた。
子どもと言うには背が高く、大人と言うには知恵が足りない。
子どもにも大人にもなれないハロウは結局、大人という存在に嫌われた。
けれど、ハロウは、しづくさえいればよかった。
しづくだけが、ハロウのことを一人の人間として扱い、ハロウを見つめる彼女の眼差しは、尊敬の念に溢れていた。
「ハロー、ハロウ。あはは、こんにちはを二回言ってるみたい」
氷細工のように美しい顔が、くしゃっと崩れ、白く小さい前歯が浮かぶ。こちらまで笑顔になる破顔一笑だった。
しづくは、今にも葉の先端から零れ落ちてしまいそうな、一滴の雨雫を思わせる、可憐で儚げな十四歳の少女だった。
つま先も指先も、取れたての真珠のように白く、儚げに見える。
今はまつ毛が影を伸ばして伏し目がちだが、大きく見開いた際、その瞳には、青みがかった星雲を思わせる輝きが浮かんだ。
彼女の黒髪は頬を隠し、あごの下まで伸びている。
清潔な石鹸の香りと乳臭さが残る体臭が相まって、小鳥の腹のような匂いがする。
本来は小粒のダイヤモンドを思わせる美しい少女だが、いつもフードを被り、その陰影が彼女の不安を表現させていた。
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