第一話 血濡れた勇者

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しづくは、この大きな屋敷の一室にいた。 今の彼女にとってその一室が、世界のすべてだった。 日当たりがいい十畳ほどの空間で、広々とした間取りが、彼女の親の愛を物語っている。 棚には無数の本が並んでいる。幼児用の絵本、昆虫、動植物、身体の部位といった図鑑、翻訳用の辞書や、海外のやはり絵本も多かった。 いずれも、彼女の年齢にしては、やや幼い内容だ。 ところどころ抜けている。 そこにあるはずのいくつかの本は、ページを床にして四散し、唯一の読み手であるしづくという少女が、再度手にとるのを待っている。 そして現在、彼女の目前には、ハロウが座っていた。 ハロウは、いつも焦ったような喋り方をした。会う時間は、マダムが決めるのが理由だ。 「しづく……そ、それ、マダムからもらった薬かい?」 と言って、ハロウはしづくが持つ錠剤を指差した。 「……いつも見ているじゃない」 と言って、しづくはその錠剤を口に入れ、コップの水とともに飲みこんだ。 疲れ切ったようで、彼女の返事は虚ろだった。 暗い顔を吹き飛ばそうと、ハロウは背中に隠したある物に手をかけ、声を張った。 「しづく、しづく! 俺さ、俺さ……ついにさ、あの〝糸〟で服を縫ったんだ!」 そう言って、その青海色の衣服を広げようとする。 「その名も……!」 しかし、サプライズを見せる前に、少女が青年に残念な告白をした。 「……ママが、もうハロウとハローするなって」  
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