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ハロウの現在の体重は、十数キログラムで、ヤトゥリバの動きを制限するものではない。
しかしその執念が、動きを鈍くさせた。体重を四分の一にされても、敵に食らいつくという、ハロウの執念に、経験豊富な悪魔のつるぎを、僅かながら萎縮させた。
その萎縮は、熱光線の回避を遅らせるのに、十分だった。
ヤトゥリバの後ろ半身を、熱光線が通過した。ハロウの前髪がチリチリと焦げる。
ヤトゥリバは数秒間その場に立ち尽くし、それから崩れるように膝を突いた。
全身で浴びることこそ避けたものの、後頭部と背中が焼けただれ、羽も尻尾も融解。
角に置いてはどろりと溶けて、その無機質な仮面に泥のように垂れ流れる。
今では固まって瘡蓋のようになっているが、その模様はどこか悲しみの顔を描いていた。
髪を燃やしたような硫黄臭さが漂っていた。
かつてダークヒーローとして、多くの人類に希望を与えた七つのつるぎの一角は、今では外殻はボロボロに崩れ、それこそ鎮火した消し炭のようになっていた。
……暴走した仲間の攻撃で……惨めで、情けねえよな。
声にはならなかったが、彼の喉はそう鳴った。
寒く、意識が朦朧として、身体も、心も、疲弊していた。
何もかもがもうどうでもいいと思っていた。
身体も、心も、真っ直ぐに暗闇に向かい……彼は死を予感した。そしてどこかで、安らかなそれを望んでいた。
もういっか、もう疲れたし。もういいや。
生への妥協とも言える感情が、彼の喉まで込み上げた。
しかし、それから数分間、彼は自ら、延命を望む。
その理由は、彼の前に、少女が立ったことにあった。
しづくだ。
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