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「……あ」
と、しづくが強くハロウを抱きしめた。目の前の真実に、ただ驚いていた。
ハロウは言葉を失っている。驚きよりも悲しみの感情を抱いていた。
ヤトゥリバの正体。
それは──。
「──おじさん……さっきの」
と、しづくが背後を振り返る。キャッスルの向こうに、半壊した屋台が倒れていた。
ヤトゥリバの正体は、しづくに揚げ菓子を渡した、農作業姿の男だった。
その正体を知った瞬間、ハロウはすべての真実を悟った。
『永遠の子ども』という、子をさらわれた親に抱いた、あの同苦の感情が一瞬にして蘇り、その閃きを手伝ったのだ。
「親だ」
そうして、自然と、涙が込み上げた。
「こどものつるぎは親だったんだ」
するとヤトゥリバが、震える手を伸ばし、申し訳なさそうに、ある物をしづくに差し出した。
それはくしゃくしゃの袋に入った──黒糖のふ菓子だった。
「子どもを奪われたパパとママが、戦っていたんだ……!!」
ハロウは、大声を出して泣いた。
子どもたちの讃美歌を聴いたときのような、沈みゆく西陽を大切な人と眺めたときのような、胸に迫る郷愁感や言葉にできない感動を抱き、訳も分からず、ただ泣いた。
「うっ、うぁ、ぅああああ……!!」
こどものつるぎとは、親の異名だった。
第四話『悪夢のヤトゥリバ』おわり
第五話『空よ、海よ、大地よ』につづく
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