第四話 悪夢のヤトゥリバ

18/18
前へ
/169ページ
次へ
「……あ」 と、しづくが強くハロウを抱きしめた。目の前の真実に、ただ驚いていた。 ハロウは言葉を失っている。驚きよりも悲しみの感情を抱いていた。 ヤトゥリバの正体。 それは──。 「──おじさん……さっきの」 と、しづくが背後を振り返る。キャッスルの向こうに、半壊した屋台が倒れていた。 ヤトゥリバの正体は、しづくに揚げ菓子を渡した、農作業姿の男だった。 その正体を知った瞬間、ハロウはすべての真実を悟った。 『永遠の子ども』という、子をさらわれた親に抱いた、あの同苦の感情が一瞬にして蘇り、その閃きを手伝ったのだ。 「親だ」 そうして、自然と、涙が込み上げた。 「こどものつるぎは親だったんだ」 するとヤトゥリバが、震える手を伸ばし、申し訳なさそうに、ある物をしづくに差し出した。 それはくしゃくしゃの袋に入った──黒糖のふ菓子だった。 「子どもを奪われたパパとママが、戦っていたんだ……!!」 ハロウは、大声を出して泣いた。 子どもたちの讃美歌を聴いたときのような、沈みゆく西陽を大切な人と眺めたときのような、胸に迫る郷愁感や言葉にできない感動を抱き、訳も分からず、ただ泣いた。 「うっ、うぁ、ぅああああ……!!」 こどものつるぎとは、親の異名(いみょう)だった。 第四話『悪夢のヤトゥリバ』おわり 第五話『空よ、海よ、大地よ』につづく  
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

649人が本棚に入れています
本棚に追加