#2 店

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 今日は天気が悪く、お客様も少なかった。  お昼を食べそびれた蕎麦屋のご主人が、遅めのランチを食べに来てくれたけど、珈琲を飲み終わったら、もう帰ると席を立った。この時間はただでさえ暇だから、ご主人が帰ったら、店には誰も居なくなる。 「ありがとうございました」  精一杯の笑顔で彼を見送っていると、扉の向こうでこちらを見つめている男の子と目が合った。 「いらっしゃいませ! どうぞ。空いてますよ」  入りにくかったのだと思って、声をかけた。男の子は随分濡れていた。雨が降って来たんだ。タオルを貸してあげたら、洗って返すとか言われちゃった。面白い。思わず笑ってしまった。今時、真面目な人なんだなあ。  幾つ位の年齢なんだろう。眼鏡を取ってタオルで頭を拭いてた時、ちょっと素敵だなって思ったの。眼鏡無い方が、素敵に見えるな。  注文に困っていたから、店内の冷房の効きとかも考慮して、温かいロイヤルミルクティーを作ることにした。少量の水で茶葉を煮出し、たっぷりのミルクを投入して沸かす。私が初めて上手に作れるようになった飲み物。オリジナルで、秘密のスパイスを入れるのよ。 「美味い!」  お茶を飲んだ瞬間、彼が叫んだ。そんな風に私の淹れたお茶を美味しいと言ってくれた人は、彼が初めてだった。
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