#1 雨

4/7
前へ
/18ページ
次へ
 傘も無いため、雨宿りをするしかない。慌てて走って手頃なところを探すと、喫茶店が見えた。『喫茶・ブレイク』と書かれた看板が軒先に、そして、飲食店によくある小さな電気看板が、店の前に置かれていた。  僕はその店の軒先を借りて、勝手に雨宿りをさせてもらった。暫く待ったが、雨はやみそうにない。  ふと入口横を見ると、ガラス張りの中に、食品ディスプレイが並んでいる。それををぼんやり眺めていたら、入口が開いてドアベルの音がした。中に居た客が、外へ出てきたのだ。続いて、ありがとうございました、という可愛い声。店主と思われる女の子が笑顔で客を見送っていた。その、彼女と目が合った。   「いらっしゃいませ! どうぞ。空いてますよ」 「あ・・・・」  店の軒先で雨宿りさせてもらっていた、と図々しい事が言えない性格のため、笑顔を湛えている彼女の申し出を断ることができず、仕方なく店内に入った。  まあ、お茶を飲むくらいの小遣いは持っているからいいか。  店は、入ってすぐ右にレジがあり、正面に六席のカウンター、更に左右の窓側にも四席ずつカウンターが配置してある。そして左右対照に、四人掛けの小さなテーブルと椅子が四組ずつ、通路を挟んで並んでいる。内装はダークブラウン基調のアンティークカフェのような雰囲気で、素敵だ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加