#1 雨

7/7
前へ
/18ページ
次へ
 僕は、紅茶のおかわりを注文した。  それにはワケがあった。雨が止んでいないということもあるけど、彼女の真剣な顔を、もう一度見たいと思ったからだ。  彼女が微笑み、湯煎用のポットを持った瞬間、先ほどのキリッとした顔になる。真剣に仕事をする顔、とても素敵だ。  もっと、話をしてみたい。  もっと、彼女の事を知りたい。  今度はゆっくりミルクティーを飲んで、彼女と話をした。  名前を聞いた。瀬川陽菜(せがわひな)ちゃん、十八歳で僕と同じ年。驚いた。同じ年ということで、一気に親近感が沸いた。  夢中になって話をした。  読書が好きで、ミステリーが好き。僕と同じだ。好きな作品話で、とても盛り上がった。楽しいひとときで、あっという間に時間が過ぎた。  また来るね、と言って、店を出た。  雨は止んでいた。落ち込んでいた気分も、すっかり晴れていた。  人と話をすると、こんなにも楽しくて、気持ちが晴れるんだ。  僕は、初めて知った。  何時もドンくさくて、ダサくて、女の子とロクに話したこともなかったから。  陽菜ちゃんと 話して、前向きな気持ちになった。  ありがとう。  また、明日から頑張ろう――  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加