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「もう決定したんだよ? もしかして音見くん、変な想像してる?」
彼女の訝し気な視線に、即座にかぶりを振ってみせた。彼女の吐く息も、周囲に積もっている雪よりも真っ白だ。
「し、してないよ! でも、なんというか……ドキドキして眠れなくなりそうというか、心臓が持たなそうというか……受験前日に死んでしまいそうで──」
ハッとして顔を上げる。彼女の病を知っている僕は、軽率すぎる発言をした。彼女はじっと僕を見つめ、言った。
「あなたが死ぬには、まだ……早すぎるよ?」
あの日の僕と同じ台詞。
よっぽどその言葉が印象に残っていたのか、彼女は五分咲きの向日葵でそう言うと、すぐに俯き、頬を掻いた。
「ま、真似しないでよ……」
「だって、私と音見くんが初めて交わした言葉だから。丁度一年前に、音見くんがその言葉を届けてくれなかったら、私とあなたは今ここには居ないでしょ?」
気づけばあの日と同じ交差点付近に差し掛かっていた。
響く打楽器の音、スピーカーから流れるベルの音。誰かが口遊む、別世界でも聞いていたクリスマスソング。
今はその中に、彼女の声が混じっている。他の音は全て空間に向けて放たれているのに、彼女の声だけは僕に向けて放たれる。僕と彼女は、ここに存在している。
「あっ、でも……」
僕は、しどろもどろの彼女を見つめた。
「……布団は、ちょっと離してね?」
そんな事をわざわざ声に出して言う彼女に、僕は笑った。
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