65人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
二次試験当日まで一月を切った。
忙しなく参考書と向き合う同級生を横目に、僕は校内を一周する。この校舎で過ごすのも数える程の日々しか残されていない。
なんだかんだで名残惜しく感じるのは、僕がこの学校に通う事がいつの間にか当たり前と化していたからだろう。
試験当日までのカリキュラムをこなした僕は、余裕綽々に図書室へと向かっていた。今はそこに彼女は居ない。それでも僕は図書室が好きだ。勉強の息抜きに読書を挟むのも、受験科目の一つである現代文への布石と取れるだろう。
ガラッと音を立てて扉を開くと、手前の席に座っていた男子生徒が僕の元を振り返る。
彼は相変わらずというか、僕を見つけるなり、親しみを込めて名を呼んだ。
「雫! んだよお前も自習か? 丁度良かった、ここ分かんねえから教えてくれよ」
「こんなところで会うなんて珍しいね。どの科目?」
健吾は参考書をぶんぶんと振り回しながら、それとは相反する紳士的な動きで隣の座席を引いた。ため息を吐きながら腰掛け、出来の悪い友人のためにタクトを振るう。
実際健吾はそこまで成績が悪いわけではない。要領が悪いだけで、効率の良い勉強方法を知らないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!