65人が本棚に入れています
本棚に追加
「モタモタしてっと、俺が食っちまうぞ?」
健吾は相変わらずだったが、もうその顔に先ほどの微笑みを宿してはいない。
健吾のおかげで気づく事ができた。
けれど同時に、自分が闇へ落ちていくのだと悟った。
それでも、既に生まれた火種を一つずつ鎮火させていく事は到底不可能だと気づいている。
「ピザの話でしょ? 僕はもうお腹いっぱいだから、食べていいよ」
「じゃ、お言葉に甘えて。夢野先輩は食われないようにな」
ニヤッと笑った健吾にありとあらゆる罵声を浴びせておいて、僕は重い腰を上げた。冷静になる間も与えない健吾は、気の知れた親友だからこそ躊躇がないのかもしれない。
「告白するんなら、男らしく『俺』って自分の事言った方がいいかもしれないぜ? まあ夢野先輩はお前にゾッコンだろうけどな」
「そういえば前も言ってたね。今更僕が俺って言ったら、それこそ違和感だらけじゃないか」
「そうか? 俺は案外似合うと思うけどな。夢野先輩との関係を早く進めるには、女子がキュンとする言葉使いも会得しないとな。ほら、試しに言ってみろよ」
「えー……お、お、お、俺は音見雫。……どう?」
最初のコメントを投稿しよう!