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とは言うものの、僕の部屋に布団は一つしかない。
その事に以前から気づいておきながら、僕がもう一式の寝具を購入する事は無かった。それがどういう意味を持つ事なのか、知っているのは僕以外にはありえない。
彼女は頷き、既に敷かれていた布団を捲る。
と、なにやら動きを止め、カクカクとぎこちない動きで首を回す。
「……えっと……どこで、寝ればいいの……?」
「夢野さんが布団使っていいよ。僕は一応寝袋があるから、そっちで」
なにも同じ布団で寝ようなどとは思っていない。僕はそこまで下衆な男ではない。
ただ、大学受験に成功した暁には、どちらにせよこの家を引き払おうと考えていた。
天涯の恩恵を受けた形でこの家の主を名乗っているが、僕は僕自身の力で何かを手に入れる事への興味関心を抱き始めていた。
自分の力で生きていく。
そのために、僕は与えられたものを捨てる覚悟を持ち始めていた。
この世界は、僕が生きていく世界だ。
天涯の神が自由気ままに操作する権利など、実のところはないのかもしれない。人間も落ちこぼれ神も、両者にとってこの世界は一つしかない。
「でも、それだと音見くんが……風邪とか」
「心配ないよ。僕は神様だからね」
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