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彼女は恥ずかしそうに身を捩り、そのまま洗面所へと消えていった。両足に残った彼女の熱は、数センチ開いた窓の外からの冷気程度では消し去れない。
こうして、僕は新たな彼女を知っていく。同じ大学に通い、同級生として過ごす日々が脳裏に描かれ、グッと伸びをした。
今日からまた新たな日々が始まる。
身支度を整え、彼女も準備を終えた頃には予定の電車まで三十分程を切っていた。自宅から最寄りの駅までが徒歩十分圏内である事を考慮すると、丁度よい頃合いだろう。
二人して僕の自宅を後にする気恥ずかしさに互いが無言で居ると、雪を踏む足音だけが響き渡った。
しかし駅前に到着すると、その静謐さは消え去った。やはり積雪の影響か、僕らの利用する予定だった電車にも遅延が発生しており、同じ受験生や会社員でホームはごった返していた。
「試験開始までにはまだ二時間近くあるけど、どうしようか……大学のサイトを見ても、入試開始時間をずらす予定はないみたいだし……途中まで歩こうか?」
「……」
「夢野さん?」
彼女は先ほどから口を噤んでいた。
一年間浪人して受験する彼女はやはりこの状況に困惑しているのだと察し、僕は行動に移す。
彼女の手を取ると、彼女が驚いて顔を上げた。その手を引き、近くに停車していたタクシーに乗り込む。運転手に行き先を伝えると、今日は多くの受験生がタクシーを利用していると語ってくれた。
ゆっくりとタクシーは発進し、ホッと息を吐く。
「これで、大丈夫。だからそんな心配そうな顔しないでよ。ねっ?」
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