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11月某日
最近買ったばかりのお気に入りの靴を履いて、彼女は外出していた。歩くたびに、石畳と靴の裏がぶつかりコツコツと高い音を立てている。特に、右足を着地させたときの足音が気になった。
はて?ピンヒールではないのに、やけに音がするなあ。と彼女は不思議に思った。そして、歩道の端に、通行人の邪魔にならないようにして立ち止まった。
右の靴を脱ぎ、案山子のように片足立ちになる。周りの目が気になるだとか、そういう躊躇した様子は見せなかった。靴を掴み、靴底を確かめる。
ゴムで出来た靴底には、いくつもの溝があり、そこに白くて小さいものが二つほど挟まっていた。小石ほどのサイズのものだ。
「これは…ビーズ?」
歩くたびに少し表面が削れたからであろうか、元は透明であったであろうビーズが、白く曇っていた。
彼女は音の原因を取り除こうと、靴を左手に持ち替え、利き手である右手を、靴底に挟まったビーズへと伸ばす。
しかし彼女の手が、寸でのところで止まる。
しばらく何か熟考する素振りをみせて、彼女は再び靴を履いた。
コツコツコツ。
彼女の右足は、高らかに音を鳴らしている。
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