嗚呼、忌まわしき先入観

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髪の色について誰かに指摘される事は初めてだったし、ましてやダークエルフなどに間違えられるなんて想像してもいなかった。それがひどく悔しくて悲しかった。私と母から父を奪った種族なんかに。 衝動に駆られて髪を切り落とそうと護身用の短剣に手を掛ける。夜のベールよりも暗い髪。これまで堪えていた物がジワリと視界を歪ませた。 乱暴に髪を掴んでいた手を離す。切り落とせる訳がなかった。母から貰ったこの色を。 確かに殆どのエルフは金髪かそれに近い色だが、髪の黒いエルフも少なからず居た。種族単位で見れば少数だが珍しがる部類ですらない。 帝国は人間の国だけれども、エルフにも入国の許可は与えられ一般の国民としての権力も与えられている。だから大丈夫だと思った。すぐに目的を果たして帰れると思った。 今まで母が使っていた薬を求めてここまで来た。ただそれだけだった。今まで売りに来てくれた行商人が来なくなり、手に入らなくなってしまった薬を。友人や親切にしてくれた大人達と国中を探し回っても見つからなかった。だから帝国の薬屋で見たとの手掛かりを基にここまでやって来て、やっと見つけたと思ったのに売ってくれなくて、代わりに買って来てくれる人を探しても皆逃げていくばっかりだった。 こんな事ならば金髪の仲間について来てもらうべきだったと思う。けれども、あれだけ一生懸命朝から晩まで掛け合ってくれた皆に、これ以上苦労をかけたくなくて……その結果がこれだ。 今からもう一度国に戻って皆に頭を下げて、付いて来て貰うしか出来ない自分が不甲斐なくて、ぼろぼろと涙を流しながら重い腰を上げた。
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