初陣

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初めに姿を現したのは三人の人間。いずれも男性。コーネリアスさんの姿を見付けると頭から爪先まで値踏みするような表情を浮かべた。 「お、ラッキー。デカイ角持った双角種じゃん。気持ち悪ィ出で立ちだが、角だけにすれば良い値で売れるんじゃねえか?」 「ハハハ、言ってやんな。双角種なんてみんな気持ち悪いだろ。いい角だけど……こりゃ片方駄目だな。半分くらいねーし。惜しいな」 「二本とも揃ってる時に会いたかったな。だったらしばらく遊んで暮らせたのに」 ギャハハと笑う三人の男達の姿に、思わず爪が食い込む程に拳を握りしめた。こいつらが虫だったなら丸めた紙の束で叩き潰せたのに。  私に向けられた言葉ではないのは分かっている。しかし、突然やってきては薄ら笑いを浮かべ、コーネリアスさんに心無い言葉を突き刺す男達に対して、私の心は嫌悪感で一杯になった。  有角人種の角は人間達の間で薬や装飾品として高い価値があり、それによってこの優しい森の番人達は滅びに向かって静かに足を進めていっている。なぜそれを知っていても尚、彼らの命を脅かすのか。 「おい、罠の様子がおかしいのはテメェのせいか?」 山猫型の獣人が剣を構える。その目には苛立ちが募っていた。ここからでは背中しか見えないがコーネリアスさんは動じている様子もなく静かに佇んでいる。 「ははは!こんなデカイだけで動きも喋りもしねぇやつらにそんなことできるかっての!!」 人間達の下卑た笑い声がただただ不愉快でしかない。どうして繁栄してしまったのは彼らなのか。森を壊して、空気を汚して。ダークエルフを生み出して。 邪悪な気配が色濃くなった。上から降ってきた何かをコーネリアスさんが拳で受け止める。鋭い金属音。飛び散る火花。降ってきた何かは彼の拳を踏み台にして再び飛び上がり、地面に着地した。コーネリアスさんも一旦後退して衝撃を受け止めるかのように腰を深く落とす。黒檀のように黒い肌の若い男。ダークエルフだった。 「甘ったれの気配がするな。お前も勿論殺すがついでに殺す」 侮蔑的な言葉と確かな殺意はエルフである私に向けられたものであろう。ダークエルフは双剣を構えて、まずはコーネリアスさんに狙いを定める。それと同時だった。 「……ウ……ス……起動……」 途切れ途切れの静かな声の直後に、猛る雄牛の鳴き声によく似た音が森を激しく揺らした。
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