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その頃、豊田は美術室の椅子に腰掛けて、考え事をしていた。
何故、昨日言った博子への言葉を後悔しているのか。そして、篤司が博子のことを気になっていると聞いて、自分は怒ってしまったのか。
考えれば考えるほど胸が痛くなってくる。
するとその時、女性の声が聞こえた。
『それはきっと恋よ』
豊田には聞き覚えのある声だ。後ろを振り向いて見渡した。
そして……ハッとした。
「ねえ……さん」
その女性は、3年前、20歳の時に病気で亡くなった豊田の姉だった。
「ねえさん、どうしてこんな所に……未練でも残して……」
あまりの驚きに、豊田は姉にいらぬことを聞いた。
『違うわよ。私はちゃんと3年前に成仏してます。それより信久、あなたは恋をしてるのよ』
「恋?誰にだよ」
『それは自分で考えなさい。私はそれだけを言いに来たの。頑張ってね。私はあの世でちゃんと見守ってるわ』
「ねえさん……」
言う間にスッと消えて、豊田は椅子から腰を上げて姉の方に駆け寄ったが、もう既に遅かった。
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