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そんなことを知らない豊田は家に帰りつき、一人、自分の部屋の椅子に腰掛けて、また考え事をしていた。
俺が恋をしている?
好きな女なんかいないのに。
豊田は机に飾ってある写真にふと目が行った。
昨年の体育祭の時に撮った、飯星とのツーショット写真だ。
「篤司……」
豊田が飯星の名前を呟いたとき、胸が痛んだ。
言葉にしなくても心の中で飯星のことを思うと、ドキドキが止まらなかった。
今までこんなことなかったのに。
『信久が恋をしている相手、やっと分かったみたいね』
豊田の背後から、またあの世から来たらしい姉が言った。
「ねえさん……でもっ!女じゃない。男じゃないか、異常だよ!」
『異常なんかじゃないわ。ただ好きになった相手が同性だったってだけで、信久の場合、友情が恋に変わっただけなのよ』
「でも、こんなこと今さら分かって、この気持ちが篤司にバレたら俺……」
豊田は、飯星にバレて離れられてしまったらどうしようかと心配だった。
『信久が心配なのは分かる。もしこの先、バレそうになって、自分の気持ちを飯星くんに伝えるのか隠し通すのか、それは信久次第。言って後悔するか、言わずに一生を送るか。私には決められないから、頑張ってとしか言えない』
豊田の姉はそのまままたスッと消えていってしまった。
「ねえさん、ありがとう。━━俺はこの気持ち、心の中に閉まっとく」
窓から空を見上げ、後悔と怒りの原因が解明した今、豊田は飯星への気持ちを封印すると決めた。
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