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「篤司、おはよっ」
豊田は昨日の昼休みのことは忘れようと言わんばかりに、教室に入って一番に飯星の席へと向かい、元気に挨拶した。
「おぅ、ノブー、良かった。なんか昨日怒ってたみたいだったからさ、俺、何かしたかと思って心配してたんだぞ」
席に座っていた飯星だったが、立って豊田の肩を両手でポンポンと叩いた。
暫く話をした後に飯星が切り出す。
「あのさ、俺、久堂博子と付き合うことになったんだ」
あー、そうか、篤司のことだ。すぐ行動を起こしたのか。
今までニコニコ顔で話していた豊田だったが、その言葉を聞いて少し強ばった。
しかしここでまた昨日のように怒ってはいけない。
この気持ちは封印すると姉に誓ったから……
「良かったな……」
豊田は作り笑いをした。死にたいくらいの思いだった。
━━━1か月後
放課後、部活開始前に豊田は美術室でデッサンをしていた。
あれ以来、豊田の姉は出てこなくなった。
今思えば、あれは夢だったのか現実だったのか、分からなくなっていた。
もうすぐ部活が始まる時間だと思いデッサンを止め、準備室に入っていくと、博子も来ていた。
二人は会釈だけして、豊田はデッサンしたスケッチブックを棚に入れ、もう一つの大きい方のスケッチブックを手に取った。
博子もスケッチの道具を持った。
「豊田くん。今日飯星くんが、3人で帰ろうって……」
沈黙でいることが耐えきれなかったのか、博子が口を開いた。
「あぁ、分かった」
豊田は短く答えて、準備室を出ていった。
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