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「日本語は必死に勉強した。いつか日本に戻って、君に……会うことができないかって。あの街にも一度行ったんだ。そこに君はいなかったけれど」
二人で同じ時を過ごした、小さな空き地を思い浮かべる。ユージンの無邪気な笑顔は、思い出の中のままだった。
「でも、こうしてまた会うことができた。君は何も変わっていなかった――この黒い髪も、目元のほくろも、ピンク色の頬も……小さな唇も」
そう言いながら親指で触れていき、最後に優しく口付ける。至近距離で視線を合わせると、瞳の中に穏やかな表情をした自分の姿を見つけることができた。
「トオル、――――」
再び唇を寄せようとしたユージンの肩を、手で押しとどめる。
「それ、なんて言っているの?」
長い睫毛をぱちぱちと瞬かせて、ユージンが問い返す。
「それって?」
「その、――――?」
先ほどユージンが透に告げた言葉を口にすると、ユージンは思い切り?を緩めて微笑んだ。
「もう一度言って?」
あまりにも嬉しそうな反応に、透は思わず口を噤んでしまう。腕を大きく広げて、壊れ物を包み込むように透を柔らかく抱きしめながら、ユージンは耳元で囁く。
昨夜何度も繰り返されたその言葉は、長い間、ずっとずっと、誰かから与えられることを願い続けていたものだった。甘い響きとともに、とろけてしまいそうなほど優しい口づけが降ってくる。窓の外では、太陽の光を浴びて青く輝く海が、変わることなく在り続けていた。
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