青い海、夏の嘘

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 いつの間にか点けられたテレビには、サッカーの試合が映し出されている。どうやらユージンは赤色、ニックは黄色のチームを応援しているようだ。前半三十分、赤色のチームが一点差で負けている。ユージンの声にも力がこもり、目の前の料理をすっかり忘れて画面に釘付けの状態だ。  綺麗に刈り揃えられた青い芝の上を、白いボールが一瞬で駆け抜ける。目が回るような速さで、赤と黄色の間を何度も折り返しながら進む。一度高く上がったボールは密集する色の間をすり抜け、赤の点に吸いつくようにして止まった。赤と白は一体となって、走る。走る、走る、走る―――――― 「やった……!」  無意識に止めていた息が、長く長く吐き出された。試合に夢中になっている間に客は増えており、歓喜の声を上げる者、落胆に肩を落とす者と、さまざまだ。ユージンも叫びながら拳を高く上げ、透のほうへ掌を向ける。  ぱしん、と小気味の良い音を立ててハイタッチをすると、ユージンはまるで子供に戻ったような、満面の笑顔を咲かせる。きっと自分も、同じような顔をしている。子供の頃は何がなくとも、こんな風に無邪気に笑っていたはずだ。それを懐かしく思うなんて、あの時には想像もしなかっただろう。  グラスを合わせ、二人で渋みの少ないワインを流し込む。再び息をのむ展開が繰り広げられ、店内の熱気は急上昇する。その熱に煽られるように、透は叫び、笑い、これまでにないほど高揚した気分に浸っていった。
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