青い海、夏の嘘

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青い海、夏の嘘

 視界に広がるのは、どこまでも続く青。 ゆらゆらと揺れながら 、手前から奥へと、次第に色濃くなってゆく。時折そのうねりは大きく膨らみ、熱気を連れてこちら側へとやってくる。聞こえてくるのは、水が砂を引きずる音、遙か上空でゆっくりと旋回する鳥の声。  透とおるはじっと座って、海を眺め続けている。どれほど時間が経ったのかもわからない。その間に太陽は上の方から容赦なく照りつけ、白い砂浜を焼いている。 「海は青いなぁ……」  もう何度目になるかもわからないほど繰り返した言葉を、再びつぶやいた。三角座りの膝に腕と顎を乗せて、上目遣いに海を眺めながら考える。 (そう、これはバケーションなんだ。俺には休みが必要だ)  顔を伏せれば一瞬にして目の前が暗くなり、そのまま意識だけが、日本へと戻っていく。 「別れてくれないか」  休みが取れたと連絡があって、週末に透の家で会う約束をしていた。久しぶりに顔を見ることができる、それだけでそわそわと落ち着かず、部屋を入念に掃除することで気を紛らわせていた。エアコンを付けても暑さが和らぐことはなく、汗が気になって慌ててシャワーを浴びる。チャイムが鳴り、はやる気持ちを抑えて部屋に招き入れた瞬間に、その言葉を告げられた。 「なんで……?」 「お前と一緒にいるのは楽しい。だけど、先が見えないんだ」  先が見えない?そんなこと、誰と一緒だって、変わらないじゃないか……そんな透の表情を読み取ったのか、彼は早口で続ける。 「男同士で、このまま二人で過ごしていく覚悟が、俺にはできなかった」  あぁ、そういうことか――――  荒れ狂っていたはずの感情が、急速に勢いを失くしていく。もともと彼は男性を好きなわけではない、そのことはわかっていた。それでもこの一年間で、自分が彼を想うほどでなくても――少しでも愛というものを抱いてくれていると、そう思っていた。しかし現実に訪れたのは、自分だけがくるくると、何も気づかず踊っていたという、滑稽な結末だった。
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