花いちりん

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ベンチに腰掛(こしか)けてから30分ほどの間に、何度(なんど)もこの無意味(むいみ)な動作を反復(はんぷく)しているのだが、どれだけこの世界の上と下とを交互(こうご)()(くら)べてみた所で、彼の傷心(しょうしん)(なぐさ)められる事は無かった。 (あー、こんな事なら、家で寝てた方がマシだったぁー!) (おも)(かえ)せば、高校生になって初恋を知り 「これが恋かぁ!」 と、まるで空へと浮揚(ふよう)する様な高揚(こうよう)した気分のまま、半年ほどその片恋(かたこい)を抱きしめて()ごした後、その過剰(かじょう)自信(じしん)(とも)に今日の初告白へと(いど)んだ彼だったのだが、それがまさか、こんな挫折(ざせつ)(あじ)わう事になるとは… 失恋(しつれん)した直後(ちょくご)は、 (帰ってふて()でもするかぁ…) とも思った敬一だったが、(たし)かにこんな(とき)、大人であれば(おも)(さま)アルコールでも摂取(せっしゅ)して、そのままくだを()いて()むってしまうと言うのは一つの手段であるだろう。 しかし、()成年(せいねん)である彼には、当然(とうぜん)飲酒(いんしゅ)(ゆる)されておらず、かと言って友人(ゆうじん)たちとパーッと()()らし、と言う気分(きぶん)にもなれない。 ではやはり、ここは(かえ)ってふて()か? いや、失恋(しつれん)と言う(やいば)深手(ふかで)()った()では、暢気(のんき)に眠りに着く事も(むずか)しいだろう。 では、どうするのか? (しば)思案(しあん)()れた彼は、やがてこう(おも)(いた)るのである。 (とりあえず、一人になって気持(きもち)整理(せいり)を付けよう…) こうして、それに相応(ふさわ)しい避難(ひなん)(さき)を求めて、炎夏(えんか)(まち)人目(ひとめ)()ける様にして自転車と(とも)にフラフラと彷徨(さまよ)い歩た敬一(けいいち)は、やがて(おお)(どお)りから脇道(わきみち)を一本(へだ)てた住宅(じゅうたく)(がい)の中にある、この小さな公園(こうえん)のベンチに辿(たど)()いたのだった。
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