過去話  勇者伝記 リュウジ・モリサキ とある一幕

2/8
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「──リュウジ」  一人の重厚な鎧に身を包んだ戦士が、肩越しにそう呼び掛けて俺を急かしてくる。 「......時間か。ダン、先鋒の兵の指揮を頼んだぞ」 「あぁ......一騎当千の名に懸けて誓おう」  俺はそれに頷いた後、右手を前に突きだした。 「【武装化(アームド)】」  そう呟くと指に嵌めていた指輪から、膨大な光が溢れだした。 「───行くぞ、《聖剣(エルキュロス)》」  やがて光が消え去ったとき、手中に現れた剣の名を口で挙げると、聖剣が俺の声に応えるように、光り輝いた。 「......」  ───睨んだ先にあるのは、かつて俺が守ると誓った世界の中心である王国の王城。 「準備は良いですか? 勇者」  城を睨んでいると、魔族の長である魔王・ナディアが隣に並んでくる。  魔王が言ったその言葉に、俺は力強く頷いた。 「......大丈夫だ」  そうは言いながらも、王城の前にはおよそ十万を越える軍勢が俺らを待ち構えている。  どの敵も魔物ではなく、鎧と剣を装備した人間。  魔物の軍勢を一人で相手したことはあるが、人間の軍勢を相手取ったことなど一度たりともなかった。  それはそうだろう。その人間達の為に戦ってきたのだから。     
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!