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「また後で」
ひらひらと右手を振り、制服姿の真宙が駆けていく。その後姿を見送ってから体育館の裏へと向かった。
真宙と私は幼馴染。
家も隣同士で、小さい頃からずっと一緒だった。
小学生までは登下校も一緒で、まるで家族のように過ごしていた。でも中学生になってからは一緒にいることが少なくなった。理由は簡単だ。一緒にいると冷やかされるから、私から距離を置いた。
真宙は何も言わなかった。私から話しかけない限り、真宙から近付いてくることはなかった。それを寂しいなんて思う資格はないなんてこと分かっているのに、寂しくて堪らなかった。昔のように二人で過ごしたいと何度も後悔した。
「あの店、なくなるんだって」
珍しく話しかけてきた真宙に言われ、すぐにピンときた。
「本当に?」
『あの店』とは、小さい頃二人でよく行った駄菓子屋のことだ。小さい店で、優しいお婆さんがいつも笑顔で迎えてくれた。
最近は滅多に行くことはなくなったけど、大切な思い出の場所だ。
「だから久し振りに、今日二人で行ってみないか?」
「行きたい!……でも、今日は用事があるんだった。それを済ませてからでもいい?」
どうか断らないでと願いながら見ると、真宙は昔の様な笑顔を浮かべ「なら先に行って待ってる」と言ってくれた。
ほっと息を吐き、胸を押さえつける。
鼓動が速くなったのを気づかない振りをした。
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