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1.デリートサイト
「もしもー僕がー、こーのー世界にー、生まれてーこなーかーったらー、僕のー愛したーあのー女の子はー、いったいー誰をー愛してーいたんだろー、もしもー、あ!また歌ってる途中に曲変える!」
「ブランキーばっかりやだもん」
そう言って違う曲をかけ始めたのは彼女のようこ。付き合い始めて1年になる。いつも車で出かけるときは大好きなブランキージェットシティーの曲をかけるのだが、30分もしないうちに違うアーティストに変えられる。
「ブランキー最高のバンドやのに、よさがわからんかなぁ」
「今の曲、なんか歌詞が暗いよ」
「もしおれが存在しなければ…みたいな歌詞。オレは好きなんです。ようこ、オレがおらんかったら他の誰と付き合ってたんやろな」
「ともくんのいない世界とか、考えられません。ともくん、私いなかったら他の誰かと付き合ってる?」
「うん」
「薄情なやつー。ねぇ、私のどこが好き?」
「それ、おれの嫌いな質問ランキング不動の1位やわ」
「どうしてよ!」
「そもそも好きになるのに「どこが」とかないやろ。好きになったから好きやねん。こことここ、そしてこの部分を気に入りました結果、めでたくあなたを好きになりました。みたいな説明できへんやろ」
「うまくごまかされてる気がする。好きになった理由というかきっかけというか」
「ごまかしてへんし、理由とかないわ。部屋探しやないねん。素敵なキッチンが決め手でした。みたいな明確な説明無理やん。だいたい恋愛感情を理屈で考えようとする時点でナンセンスやわ」
「誰もそんな話してない!ちゃんと見てくれてるか不安になっただけ!なによ!『もし存在しなかったら』とか考える方がナンセンスだよ!存在するんだから。生まれてきたことをなかったことになんてできないじゃん!」
確かに。そんなことできるわけがない。
できるわけないが、おれはふと、もし自分が存在しなければ…とか、もしこの人の存在がなければ…など考えてしまうことがあった。まあ、確かにナンセンスと言われればそれまでだ。
「あ!『ようこがいなかったら今、誰とどうしてただろう』とか考えてるでしょ!」
図星をつかれて笑うしかなかった。
「なによー!」
横で怒り出すようこ。
(今日は機嫌を直してもらうのに時間がかかりそうだ)
おれは今のうちから対策を考えておくことにした。
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