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思わず愚痴っぽく呟いた千尋は、尚子のノートにも「邪魔はしない」云々と書かれていたのを思い出し、そのまま無視を決め込んだ。
それからさらに一時間ほど経過すると、猫は音も無く椅子から飛び降り、無言で歩き出す。
「あれ? どこに行くの?」
反射的に声をかけた千尋だったが、猫はそのまま振り返りもせずに店を出て行き、彼女は「行き先を言う筈もないか」と自重めいた呟きを漏らした。
そしてこのまま夕方まで閑古鳥が鳴いているのかと、彼女が本気でうんざりしかけた時、小学校低学年に見える少年が二人唐突に現れ、千尋は慌てて愛想笑いを振り撒いた。
「いらっしゃい」
「こんにちは、おばさんは?」
(このくそがき! そりゃああんたの母親と、それほど世代の差は無いでしょうけどね!?)
大真面目に一人の子供にそんな事を言われて、千尋は内心で腹を立てたが、何とか顔に笑みを浮かべつつ答えた。
「ええと……、私は田崎千尋って言うのよ。この店を暫く預かっているの」
「おねえさんじゃなくて、おばさんは?」
益々不思議そうに問いを重ねられた千尋は、相手が意図するところを誤解していたのを悟って、慌てて言い直した。
「あ、ああ……、おばさんって、お母さんの事か……。おばさんはまだ入院中だから、その間、私がここを頼まれているのよ」
「そうなんだ……」
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