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「それじゃあ本当に、尚子さんが飼っている猫では無いのね?」
「ええ。試しに何か食べるかと思って幾つか食べ物を出してみたんですが、最後まで水だけ飲んでいました」
「不思議ねぇ」
「まあ、こっちは無給のボランティアなのに、猫に報酬を出さなきゃいけなかったらさすがに腹が立ちますから、ちょうど良いです」
「それもそうね」
すました顔でそんな事を言われてしまった理恵は本気で笑ってしまい、その日は千尋を含めて子供達全員、笑顔が絶えない夕食となった。
それから約四時間後。その家の主である義継が帰宅し、人気のない食堂で夕食を食べ始めると、理恵がさり気なく店の事を話題に出した。
「そういえば、千尋さんの方は順調そうよ? 例のお店に、頼もしい助っ人さんがいたんですって。夕食の時に、彼の話で盛り上がったのよ」
「……彼? 何の事だ?」
口調は平坦ながら、夫の眉間にくっきりとしたシワが刻まれたのを認めた理恵は、何とか笑いを堪えながら夕食時に聞いた話を掻い摘んで説明した。
「情けない……。猫にフォローして貰うとは何事だ。恥を知れ」
聞き終わった途端、千尋を叱責する台詞を口にした義継だったが、実は夫が口で言う程不機嫌ではない事は理恵には分かっていた。
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