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千尋にとって想定外だった事に、店舗横のガレージが子供達の溜まり場となっており、《よろずや》が再開した事が分かるとすぐに、常連客が入り浸るようになった。
「お姉さん、そっち使わせて貰うから、座布団出して」
店で飲み物やお菓子を購入した小学生高学年と思われる三人組が、隣接するガレージの方を指さしながら言ってきた事を聞いて、千尋は面食らった。
「はい? 座布団って何の事よ?」
「あれ? おばさんから話聞いてない?」
「ガレージにロッカー置いてあるよね?」
「そこで俺達の私物を、預かって貰ってるんだよ」
「にぁあ~!」
子供達が口々に訴えると、丸椅子から飛び降りたクロがレジ台の引き出し目がけて飛び上がり、その一つを鳴き声を上げながら前足でタッチして、音も無く床に下り立つ。
「おう、さすがにクロは分かってるよな。そういう訳だからお姉さん、そこの鍵開けて」
「ええっと、鍵、鍵っと。あ、ロッカーはこれか」
そこまで言われて、千尋はクロが触った引き出しからロッカーの物と思われる鍵を取り出し、三人と連れ立ってガレージに移動した。そして言われた通りに、ロッカーを開けてみる。
「はい、お待たせ。……本当に色々、入っているわね」
そこには細々とした道具類の他に、確かに小さめの座布団が積み重なっており、子供達は次々に目当ての物を引っ張り出した。
「これが俺の、マイ座布団」
「こっちは俺」
「あ、俺のも取って」
そしてガレージの隅に積み重ねてあるジュース瓶のケースを引っ張り出し、その上にガレージに立てかけてあった薄い板と座布団を敷いた彼らは、早速揃ってそこに座り、携帯型のゲームを始めた。その光景を目の当たりにした千尋は、呆れ返りながら声をかける。
「お母さんもお母さんだけど、あんた達、何を持ち込んでるのよ」
しかし子供達は、ゲーム機のディスプレイから目を離さないまま、事も無げに答えた。
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