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心から、気持ちを手に入れたいのに
あと数分でチャイムが鳴ってしまうというのに、山田さんは教卓の前に散らばった教科書やペンを拾うのに必死だ。私はその姿を見て手を叩いて笑う周りの女子たちに嫌悪する。
これから担任である数学教師の授業だけれど、あえて担任が来る前に山田さんの私物をばら撒く嫌がらせをするところが陰湿だと思ってしまう。
けれど私は山田さんの教科書を拾うのを手伝うことも、笑う女子を注意することもできない。
山田さんが席を離れている間に私物を机の中から勝手に出したのはクラスメートの数名の女子だ。
いつから始まったのかも理由もわからないけれど、いつも山田さんを標的にして数々の嫌がらせをし、面白おかしく笑っている。必死になって教科書を集める山田さんをバカにするように。
彼女たちのその様子は不快そのものだ。いじめられるはっきりとした理由もないのだから、山田さんには同情してしまう。ほとんどのクラスメートがそう思っているはずだ。みんな雑談しながらも横目で山田さんを意識していた。
けれど誰一人山田さんを助けようとはしない。もし今私が山田さんの教科書やペンを拾うのを手伝えば今度は私がいじめられる番だ。だからいじめを不快に感じても山田さんに関わる勇気が持てないでいる。
唐突に立ち上がり山田さんに近づく男子生徒がいた。
「ほら」
山田さんのペンを拾って渡したその男子生徒は舟木くんだ。意外な人物にクラス中が静まり返った。
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