かのぴ「オノ・ヨーコ、あるいはマーク・チャップマン」

1/1
前へ
/4ページ
次へ

かのぴ「オノ・ヨーコ、あるいはマーク・チャップマン」

 新宿バティオスの楽屋の壁がいちめん黒色であるのには理由があって何しろ狭い空間には暇はあるが金はない、いや、一回の出演料五百円のライブに月に四十本も出ているために金がなければ暇もないような芸人たちがぎゅぎゅっとあつめられているのだからそこは悪ふざけが育ちやすい土壌であって当初は剥き出しだったコンクリートの壁には油性マジックでいくつも女性器マークが描かれていたものの、時代がくだればくだるほどに「女芸人」という種類の人間も増えて男女共有で使うことになった部屋の壁に二重丸の真ん中に線を一本引いただけのような単純な記号が並んでいることは、花屋の壁にあたまがみっつのぎざぎざでできたチューリップの絵を自慢げに描いているような恥知らずの行為ではないかたいへんに複雑な構造の「女」そのものがたくさんいる前でXYZなんて!という意識がオーナー側にはたらいていったんは白に塗りつぶされたが白ってまた描こうと思えばなんかしら描けてしまいますよね描こうと思えば何かがなんでも、とたぶんコント師って呼ばれてるような人だと思うんだけど、そんな聡明なだれかが意見してさらに黒色に塗りつぶされたのだ、だから、ほら、あそことか、ところどころ塗装が剥がれてそのしたの白色が見えてんだろ、がりがり爪やなんやでこすれば伝説のマンコが発掘されるはずだぜ、トレジャーだよトレジャー、とぼくの頭上で森はしゃべりつづけているがその内容は「森は靴紐を決して自分では結ばない」という話と同程度にうさんくさい。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加