サッカー

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 とても許される事ではない。先程から俺を見つめる拓海の視線が痛く突き刺さる。この場から消えてしまいたい衝動に駆られた。 「おい、どうした? 大丈夫か?」  拓海が眉根に皺を寄せて俺に歩み寄ってくる。 「いや、なんでも……ない」 「うわっ! 手から血が出てるじゃねぇか。待ってろ!」  そう言うと、拓海は再び箸の転がる弁当箱の方へと走っていき、弁当箱を包む布を片手に引っ掴んで戻ってきた。その勢いのまま拓海は俺の出血している右手を力強く自分の方へと引っぱると、弁当を包むための布を俺の右手に巻いていく。最後に、拳を覆うようにしてキツく縛った。 「ちょ、痛い。血が止まる」 「あ? キツすぎた? 加減が分からないんだよ」  そう言いながらもニカッと白い歯を見せながら笑む拓海の姿に、いつの間にか俺の体の震えは止まっていた。 「いや、一度これ、やってみたかったんだよね」 「……は?」  拓海は笑みを崩さぬまま、そう言って俺の肩を叩いた。思わぬ言葉に俺は間抜けな声をこぼす。 「いやさ、アニメとかだとよく見るじゃん? こう、その場の最適解みたいな応急処置ってさ。実際にやってみると、俺格好いいー! みたいな?」  どうしてだろうか、先程から拓海は笑顔を崩していないにも関わらず、拓海の笑顔の質が下がったような気がした。それでも、拓海はこういう奴だったと思い返して、自然と笑みがこぼれる。 「だってさー、ズルいじゃんよー。ヒーロー番組とか、あんなチートな力で人助けして、感謝とかされてんだぜ? いいなー。モテモテなんだろーな。それに対して、俺はこんなに格好いいことしたのに、相手がお前だなんて……あー泣きたくなってきた」  拓海の馬鹿丸出しの言葉を聞き、俺は何故こんな奴に嫉妬していたのだろうかと情けなくなってくる。同じ嫉妬でも、ここまで違うものかと唖然とした。  カラカラと笑ったかと思うと、激しく落ち込む。そんな拓海を見て、自分の小さな悩みなんて吹き飛んでしまった。 「……今日は遅刻すんなよ」 「お? どうした? 急に」 「部活だよ。ウカウカしてると、すぐに足下すくうぜ?」  天気の良い昼休みの屋上。風に遊ばれて二本の箸がコロコロと転がった。 ー完ー
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