第8章 密室の中の遊び

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長崎くんと上林くんも各々ポケットからスマホを出してくる。その当然みたいなこだわりのない様子にまた頭が混乱し始めた。単に懐かしい友達に再会したから連絡先を交換しようってくらいの裏心のなさ。やっぱり、あんなことをされたって記憶はわたしの中だけの妄想なのか。 そこが思い出したようにずきずきと重く痛み出す。それとも、常識とか感覚の相違? 自分の手がバッグからスマホを取り出すのがわかって少し焦る。本気?この人たちと連絡取り合って、何する気なんだ。 ロック解除してLINEのアイコンをタップしながら自分に言い訳する。別に大丈夫だよ。連絡先交換だけしてほとんどやり取りなんかしてない相手もいっぱいいるし。こんなの社交辞令でしょ。 それに、連絡来たって適当に返しておけば大丈夫。別に会う必要なんかないんだし。のらりくらりとかわしておけばいい。これは、そう。この場の雰囲気を壊さないため。せっかく彼らが穏やかで親切な態度なんだからこのまま別れたい。そのために向こうに合わせてるだけ、だから。 滞りなく交換が終わってやっとスマホをしまう。ああ、これで終わりだ。早く自分の家に帰りたい。誰も待ってることのない、独りぼっちの部屋へ。 顔を上げてじゃあ、と口を開こうとするといきなり高松くんに引き寄せられ、普通に唇にキスされた。別れ際の恋人同士みたいに。そっと舌が入ってきて驚愕する。…人けはないけど。ここ、普通に外なんですけど。     
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