肆:刻まれし罪

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「……っ」 コクコが、息をついた。 もだえるような息づかいには、百合子を押し退けることへの葛藤がうかがえる。 百合子の両の二の腕にある、コクコの指先が震えているのが伝わった。 (どこまで甘い男なのだ) 腕力がないわけでも、体術に優れぬわけでもなかろうに。 それは、組み敷いた身体からも、先ほどの受け身の取り方からも分かるというものだ。 ───百合子を、傷つけない。ただ、そのためだけに。 (そうだ。この男は……そういう男なのだ) 甘さは弱さともいえるかもしれない。 しかし百合子は、その『弱さ』が愛しいと思えてしまった。 「……お前が」 言いながら、コクコの身体に伏せた顔を上げ、百合子は自らが刻みつけた『痕』に触れる。 「これから先、残していいのは、私がつけたこの痕だけだ」 指先でなぞってみせる、赤い印。コクコの身が、びくっと跳ねた。 「……お前の罪は、私も背負う。これまでのものも、これから先のものも」
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