肆:刻まれし罪

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──兄が、【あの世界】で無事に一生を終え、幸せに暮らせていけたならと思った。 だがそれは、百合子の勝手な願いであって、兄の望みとは違うかもしれない。 たとえ結末が変えられたとしても、百合子のなかには『小百合』としての記憶が残っているのだ。 罪が、消えた訳ではない。 「……死を背負って生きること。それが私の償いだ」 思わず口をついた、独りごと。 「百合……」 この近距離で聞こえないはずもなく、コクコは驚いたように百合子を見た。 そして──。 「ならば、百合が背負うものは、わしも共に背負おう」 言って、抱き寄せられた身体は、心地よい束縛とぬくもりにつつまれた。 「……百合は泣き顔も美しいのう……」 吐息まじりに告げられた言葉に、百合子は自分の頬を伝ったものに気づく。 コクコの指が百合子の髪をいたわるようになでた。 「わしは、果報者じゃ。百合を真実(ほんとう)の“花嫁”に迎えられるとは」 声に含まれる幸せな響きに、百合子は面映(おもは)ゆさを感じながら、濡れた頬をコクコの肩口に押しつける。 これだけは言わねばと、口を開いた。
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