*夜は明けずとも、ふたりなら

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それ(・・)もか……」 「ソレもじゃ!」 闘十郎は、快活に笑い飛ばす。 それに対し百合子は、自身の失態を恥じ入るように押し黙ってしまった。 (少し戯れが過ぎたかの) 何も言わずに背負われたままの麗しき黒い“花嫁”に、慰めの言葉をかけようとした、その時。 「……闘十郎」 すっ……と、頬を伝い唇に伸びてくる、しなやかな白い指先。 「私に、飲ませてくれるんだろう?」 この口で、と。 耳もとで吐息と共にささやかれる、甘い欲望。 「……っ」 幾度となく告げられた、願いの形をとった(ねや)への誘い。 聞き慣れることもなく、闘十郎は思いきり、その身を跳ねさせた。 「わ、分かった。屋敷まではあと少しの辛抱じゃ。しばし待───」 「待、て、な、い」 言葉じりをさえぎった唇が、闘十郎の耳たぶに触れたかと思うと甘噛みされた。 (……まったく。百合はわしを困らせるのが得意なおなごじゃ) 本人の自己評価は「自分には色気がない」と言うが、闘十郎にとっては初めて出逢った時から、百合子という存在に惑わされっぱなしである。
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