噂のコンビニエンスストア

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「なぁ、俺が車出すからさ。今夜、行こうぜ? 取材だ、取材!」  大城紘は高校からの友人だ。いかにも体育会系な日に焼けた肌に、意思の強そうな太い眉。サッカー部だった大城は友達も多く、お祭り好き。かたや良修は書道部。趣味は読書という完全インドア系だ。全く接点がないのだが、2年の時に同じクラスになったのがきっかけで意気投合した。正反対の性格だからちょうどよかったのかもしれない。大学に進んでも、学部は違うのに毎日なにかとつるんでいた。  なんのことはない。大城は卒論に飽きて気分転換したいのだ。大城に押し切られる形で、ドライブがてら確かめに行くことになった。  噂のコンビニがある場所は、沖縄本島南部I市。I市は那覇市から12キロの所にある人口はおよそ6100の街だ。かつては高い技術を誇った漁師町として知られていたが、現在は半農半漁。第二次世界大戦末期の沖縄戦終焉の地でもある。修学旅行の平和学習で訪れたという人も多いだろう。あちこちに点在する慰霊碑が、戦争の悲惨さを今に伝えている。そのせいもあってか不思議な話は尽きない。人によっては「そこ」には行けないらしい。良修に霊感なるものがあったら、いろいろ見たり聞いたりするのかもしれないが、残念ながら一度もない。だからこそ興味があるわけだが… 「…おい、マジで引き戸になってるよ…」  大城は期待に満ちた声で囁いた。件のコンビニについたのは、深夜2時を少し過ぎた頃だった。周囲はさとうきび畑。真っ暗な中、コンビニの明かりを見つけた時は正直ホッとした。ガラス張りの引き戸には、バリアフリートイレのドアのような大きな取っ手がついていて「手動です」の張り紙があった。それだけで良修たちのテンションは一気に上がった。  大きな道の側なので、昼間は利用者も多いのだろうが、この時間は誰もいない。普通、深夜であろうと利用者の1人や2人…田舎であればヤンキーが車を止めてだべっていそうなものだが、誰もいなかった。冷やかし半分といったところだったので、誰もいない方がいいような気がした。 「じゃ、いっちょ行きますか!」  大城はスマホで動画を撮り始めた。買い物ゲームを装って動画を撮る計画だ。良修が買い物をする役である。
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