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「これから指示通り、買い物をします」
コンビニの引き戸を開けて、ドアの前でカメラに向かってそういった。ピンポーンというチャイムとともに、店の奥から「いらっしゃいませー」と声が聞こえてきた。良修たちはざっと店内を回ってから、メモを片手に買い物を始めた。良修はレポーターよろしく商品をカゴに入れる度にいちいちカメラに向かって見せる。大城も最初は調子よく実況しながら撮影していたが、ふと黙り込んだ。
「どうした?」
「あ…いや…なんか疲れてんのかな?」
大城が目をこすった。2時を回り、眠くなる時間帯だ。さっさと終わらせて帰ろうと良修は思った。店内を一周しながら買い物メモにある商品をカゴに入れてゆく。今の所、特に変わったこともない。
(ま、ネットに転がってる都市伝説なんてこんなもんだろ)
内心苦笑いした。と…良修はトイレに行きたくなった。
「あ、悪い。トイレ」
良修は大城にカゴを預け、雑誌コーナー奥のトイレへ向かう。トイレのドアを閉めた途端、トントン…とノックされた。
(大城よ…悪ふざけしてからに)
ワクワクと楽しそうにいたずらする大城が目に浮かぶ。返事をせずに用を足していると、また、トントンとノックされた。しかし、今度はしつこい。
トントントントントントントントントントントントントントントントン…
かなり早いテンポでノックが続く。悪ふざけにしてはタチが悪い。いや、本当に切迫した人が待っているのかもしれない。良修はあたふたと手を洗った。
「ギャーーー!」
トイレのドアに手をかけた時に、外から叫び声が聞こえた。ガシャン、ガタガタ…バタバタ…と遠ざかる足音、ピンポーンというチャイムが聞こえた。
慌てて外に出ると、店内には中身をぶちまけた買い物カゴと大城のスマホ、商品棚にぶつかったのだろう…床におつまみやパンなどが落ちている。
「どうしましたか?」
店員があくびをかみ殺しながら声をかけてきた。
「…あ…いや、ちょっとつまづいて…すみません」
店員は少し眉をひそめたが、黙って落ちている品物を棚へ戻すとレジへと入った。良修は小さな声で再びすみませんと謝り、会計をすべくカゴを持ってレジへゆく。レジに向かう途中、雑誌コーナーの窓から外を見ると、大城が運転席でハンドルを握っているのが見えた。
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