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(なんだよ、アイツ。いいだしっぺのくせに…)
トイレでの悪ふざけ、計画放棄。心霊現象の演出にしてもタチが悪い。一人店内に残され、店員に謝るハメになったことに少なからずムッとしていた。
ピ…ピ…店員は淡々とレジを通していく。良修は思い切って店員に話しかけた。
「ここ、少し変わってますね。ドア、手動の引き戸とか」
「あー…そうですね」
「台風で壊れたとか。周り何もないですもんね」
「まぁ、そうですね」
店員は素っ気なく返す。良修はめげずに食い下がった。
「深夜勤って色々大変ですよね」
店員はピタッと手を止め、わずかな沈黙の後、口を開いた。
「…お客さん、噂知ってるんですね」
店員の断定的な口調に怯んだが、ここで否定するのも不自然だ。素直に認めた。良修は卒論のために調査中であることを告げた。意外なことに店員は淡々と話し始めた。
「まぁ、自分の頭がおかしくなければ、噂は本当です。いろいろ起こりますよ。誰もいないはずなのに咳払いが聞こえたり。誰かが側を通ったりなんてザラっすね」
間も無く深夜3時になろうとするところ。ポツリポツリとでも客がいればいいのだろうが、客もいないとなれば暇で仕方がないのだろう。
「入口のドアの件は自分がバイトに入る前からなんで聞いた話ですけど、昼だろうが夜だろうが、誰もいないのに開くってんで付け替えたみたいっすね」
「誰もいないのにですか」
「アルバイトもいつかないんで、また聞きのまた聞きってのもありますけど。ドアが開いてチャイムが鳴ったんで、いらっしゃいませーっていいながら見ると誰もいないとか」
「子供のいたずらとかでは…」
「深夜っすよ。駐車場には車もない。もちろん店内に客は1人もいない。ここ、住宅地からも離れてるでしょ。だから犬とか猫とかもそんなにいない。ま、深夜に限ったことじゃなかったみたいですけどね」
店員はテキパキと品物を袋に詰めて差し出した。良修は口の中でどうもといって受け取る。店員は続ける。
「監視カメラに店内をウロウロする人が写ってるんで出てみたら誰もいないとか。そういうのはいいんですけど」
「いいんですか?」
「気味は悪いけど実害はないですから。でも困るのは搬入されたばっかりの弁当が全部腐ってた時ですかね。損害だけですよ」
「腐って…」
「保冷車着いて、納品チェックして、品物並べてすぐの弁当がね、全部」
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