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ちゃんと管理してなかっただのと上司に叱られるわ散々だったようだ。不思議なことも日常的に起こると、驚くとか怖いという感情よりも損得勘定が先になるらしい。
「と言ってもそれが本当に霊のせいかどうかとかわかんないですけど」
「こんなこと俺に話してもいいんですか?」
「まぁ、どうっすかね。でも既にいろんな話が出てるでしょ? それにお兄さんはちゃんと理由を話してくれたし。卒論、なんでしょ? ま、怖いもの見たさで来る冷やかしのお客さんも何かしらお金落としてくれればそれはそれでありがたいんですよ。損害だけよりは」
良修は店員に礼を述べると、車に戻った。大城はエンジンをかけて待っていた。真っ青な顔で、良修が戻ると同時に物も言わず車を発進させた。
「お前、一体どうしたんだよ」
良修が話しかけるも大城は一切しゃべらない。さとうきび畑の中をかなりのスピードで飛ばしてゆく。街灯もほとんどなく、車のヘッドライトだけが頼りだ。月は出ていたが、三日月のあかりは弱々しいものだった。
「お、おい。ちょっと飛ばしすぎだぞ」
良修が大城を見る。大城は水をかぶったようにびっしょりと汗に濡れている。確かに今は8月。熱帯夜が続いている。しかし、車の中はエアコンが効いていて寒いくらいだ。
「おい」
「やばい…やばい…やばい…」
大城はブツブツつぶやきながらどんどんアクセルを踏んでゆく。
「大城、あ…危ない!」
さとうきび畑の中の小さな交差点。進行方向の信号は赤に変わった。と…左側からライトが見えた。大城がブレーキを踏む。同時に良修がサイドブレーキを引いた。
静かな道路にブレーキの大きな音が響いた。良修たちを乗せた車は交差点に頭を少し突っ込んだ状態でかろうじて止まった。交差点左からの車は良修たちの車を避けようと、大きく左に切って、止まった。ハザードが点滅し、男性が降りてこちらに向かって来る。
良修は心臓が口から飛び出るのではないかと思うほど激しく拍動している。こめかみまでピクピクと動いているのがわかった。目は開いているのだが、周囲がよく見えない。近づいて来る男性の動きがとてもゆっくりに見えた。そろりと腕を動かして怪我がないことを確かめる。右を見ると、大城がハンドルに突っ伏していた。
「大丈夫か?!」
男性が外から運転席のドアを開け、聞いてきた。大城はハンドルに突っ伏したまま、肩で息をしていた。
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