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「何やってんだ! 怪我は? 飲酒運転とかじゃないよね?」
「の、飲んでません!」
良修は慌てて答えた。男性は「深夜の田舎道とはいえあんな運転しないほうがいいよ」とだけ言い、交差点を後にした。
「…お前、どうしたんだよ。俺たちが都市伝説作るとこだっただろ」
説明のつかない何かを振り払うように精一杯おどけた口調で話そうとしたが、声が上ずった。物もいえない状態になっている大城とどうにか運転を代わって、大城を送り届け、自宅へと戻ってきたのは明け方になっていた。渋滞もない時間帯。本来なら1時間程度で戻れるはずが明け方になってしまったのは、大城がスーパーに寄りたいと言ったためだ。
スーパーの駐車場に車を止めた途端、大城はトイレに駆け込んだ。良修は車から降りて自販機で飲み物を買った。横のベンチに腰掛け、一気にペットボトルをあおった。喉がカラカラだった。水を飲み干し、少し人心地ついたところで、疲れと眠気がやってきた。
(まず寝たい…起きたらあのコンビニの噂を検索して…)
眠い目をこすりながらながらぼんやりと考える。
ベンチに腰掛けて10分過ぎ、15分過ぎ…20分が過ぎた。大城はなかなか戻ってこない。眠気もピークに差し掛かり、さすがにこれ以上は運転がやばい。
(あいつ、倒れてるんじゃないよな…)
トイレに行くと、大城は一心不乱に手を洗っていた。というより、蛇口から勢いよく流れる水に手を晒しているのだ。流れる水をじっと見つめる大城の鬼気迫る表情に、声が引っ込んだ。トイレに駆け込んで20分、ずっとこうしていたのか? 良修は言いようのない何かを感じ、ぶるっと震えた。
間も無く大城は気がすんだのか…手を洗うのをやめた。すまん、とポツリといったきり、家に帰るまで一言も口をきかなかった。
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