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あの日のことを大城に確認できたのは、夏休みも終わり、沖縄に短い秋がやって来た11月頃のことだった。ゼミ終わりに学食のテラスでコーヒーを飲んでいた大城を捕まえ、良修は話を切り出した。
大城は「避けててごめん」と小さく謝ってから、あの後しばらく発熱が続き寝込んでいたといった。「お前がトイレに行く前からちょっとおかしかったんだよ」とポツリポツリ話し始めた。
例のコンビニ店内で、大城はスマホの録画画面を見ていた。調子よくあれこれツッコミながら買い物をしている良修を撮る。良修というか、コンビニの店内を撮る。最初は何事もなかった。しばらくするとスマホの画面…良修の背後にチラッと何かが横切るのが見えた。しゃがんでいた店員が立ち上がったのかと思った。直接見たが誰もいない。気のせいかと思って、またスマホの画面を見る。するとまた良修の背後を、さっ…と何かが横切った。
(何かいるかもしれないと思ってるから。プラシーボだったけか?)
大城は内心苦笑いした。その後も調子よく良修をいじりながら撮影を続ける。
良修がトイレへ行った。大城はその間に会計をすませようと思った。
(店員、奥で作業してたよな)
雑誌コーナーから飲み物の冷蔵庫前を通り…棚と棚の間には誰もいない。さらに奥のパンコーナーへと曲がる。
そこに店員はいなかった。そこにいたモノは…店員と思っていたものは腰の曲がった、皺だらけの老人だった。いや、老人のようなモノだった。大城の膝あたりまでの背丈しかなく…地獄絵などで見る餓鬼のようだった。じーっとパンを見ていたソレが大城に気づいた。首を曲げて、黄色く濁った目で…卑下た笑いを浮かべながら大城を見た。
ひゅ…息を飲む音が大きく響いた。
ソレがピョンっと大城へ近づいた。
次の瞬間、買い物カゴを放り出し、コンビニから逃げ出した。
「なんだ、それ」
大城の話はにわかに信じ難かった。深夜とはいえ、コンビニの明るい店内。整然と並べられた商品。そこに説明のつかないものが割り込む余地はないように思えた。
「わかんねーよ。でも、確かに見たんだよ」
「いやいや。ふざけてちょっかいかけてきたくせに簡単に信じられるか。俺がトイレに入ってる時にノックしただろ」
良修は大城が悪ふざけしたことに一切触れてこないので、少しムッとしていた。ずっと避けてて、ここもスルーかよ…
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