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「トイレ? 俺、何もしてないし。お前…気づいてないのか?」
「ハァ? 何を?」
悪ふざけをした上に、あの危険運転。おまけに今日まで何の説明もない大城に対してさすがに苛立ちを隠せない。
「俺たちがコンビニに入った時、店員はいなかったんだよ」
大城が真っ青な顔をしていった。
「はあ? いらっしゃいませって声かけられたじゃないか。実際、動画にも声、入ってる」
怖くて再生も削除もできなかったというあの日の動画を見ながらいう。動画にはこれといっておかしなものは写っていなかった。
「ああ。俺も聞いたさ。でもな、車から見てたんだよ。ずっと。お前がトイレから出てきた時に店員も奥から眠そうに出たきた。俺たちは店員がいると思っていただけなんだよ」
あくびをかみ殺しながら品物を片付けていた店員が蘇る。待てよ。店を回っていた時はどうだった? コンビニでの行動をトレースする。コンビニの玄関。レジ。雑誌コーナー。飲み物コーナー。お菓子、パンコーナ…店員を見た記憶が、ない。
「あの日、ゲームを装っていろいろ買っただろ。パンとかおにぎりも買ったよな」
大城の声が震えている。
「…あれな、全部腐ってた。おにぎりだけじゃない、パンも。全部」
店員の言葉が蘇った。
「搬入されたばっかりの弁当が全部腐ってた時ですかね」
大城は気持ち悪くなってあの時の品物は全部捨てたと続けた。
良修は、あのコンビニについてのネット上の情報を思い出していた。「出入り口が引き戸である」「霊が出入りするから変えたらしい」「行ってみたら本当に引き戸だった」という程度のもので、誰かが明確に見たとか体験したというものは出てこない。結局、何か刺激が欲しい暇人達が都市伝説の周りに集まって、妄想や期待を積み重ね、さらなる噂を作っているだけだ。都市伝説なんて大抵そんなものだ。そこに曰くなんてあろうはずもない。
あの日、コンビニの店員から聞いた話も大体は説明がつくじゃないか。自動ドアの誤作動なんてよくあることだし、名前を呼ばれたような気がするなんていうのも誰だって経験があるはずだ。「何かある」と思っているから余計に意識してしまい、なんでも怪現象に思えてしまうだけだ。でも…
「あそこ、自動ドアのままが良かったんじゃないかって、思う」
大城がぽつりといった。
「もう、ずっと溜まっていくしかないだろ…」
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