ヘヴン

1/15
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

ヘヴン

 そのお店は、朝と夜が生まれてくる海岸沿いにあった。  ウッドデッキには色とりどりのパラソルがいつも咲き誇り、沖から吹いてくる海風が砂を運んだ。ひっそりと佇む海の家だ。 「ねぇ、きみ。なにしているの」  梅雨晴れのその日、新しいセーラー服にいまいち馴染めていない私は、硬いローファーや靴を脱ぎ捨てて、砂浜の傍らにあったお店の窓から店内をのぞいていた。  店内には砂浜に打ちあげられた貝殻や流木が飾られていて、カウンターにはサイダーやレモネード、ローマ字のラベルが張られたお酒の瓶が並んでいる。  砂浜に立つ看板には『ヘブン』と書かれていた。 「私ですか」 「そう、きみ」  ウッドデッキの方を見遣ると、私に微笑みかける女性がいた。    とても若いかもしれないし、それなりの年を経ているかもしれない、不思議な雰囲気を持った女性。体重をウッドデッキに預けるその人は両手を組んでいて、まるでゼリーのようなやわらかな世界を両手で包み込んでいるみたいだった。 「もしかして、この世界に降りたばかりの天使さん、だったりするのかな。こんなところにきみのような、うら若い女の子が来るなんて」     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!