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「飛べない鳥ね。翼はあるのに」
なぜでしょう。その言葉を聞いた私は、唐突に、点字を勉強しようと思い立ったのです。
読めるようになるだけではない、自分で、あの指先で触れる言葉を綴ってみたい。そしてこの方に読んでいただきたい。そう強く願ってしまったのです。
その日から、私は家政婦の仕事を終えるとすぐにアパートに飛んで帰り、買い込んだ書籍を読んで点字の習得に努めるようになりました。完全な独学ではありましたが、ひと月もすると、どうにか簡単な文章なら綴れるようになりました。
それでも小型点字板を初めて使った時は、逆から点字したり、文字を間違えたり、何枚も失敗してしまいました。ですからほんの数行の言葉を完成させ、その薄桃色の一葉を教授に差し出した時は、嬉しくて誇らしくて叫び出したいほどでした。
私が差し出した一葉に教授は大変驚かれたようでした。けれど細い指先で丁寧に文字をなぞってから、にっこりと笑ってくださいました。
「すごいわ。ご自分で勉強なさったの?」
素直な賛辞に、私の身体中の水分が蒸発しそうになります。
「童謡ね。私も好きだわ、この歌……」
教授がその歌を口ずさみかけた時、書斎に旦那様が入ってこられました。
「あなた、これを見て。苺さんが点字で書いてくださったのよ。何が書いてあるか分かる?」
旦那様はしばし、書斎机の上に置かれた紙片を眺めておりました。あのぷつぷつを、旦那様の視線がなぞっている。そう思うと私の全身がむずむずし始めました。
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