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すると、旦那様がちらと顔を上げ、私を見ました。ふ、と伸ばした指の先端が私のほうへ──と思ったのは錯覚で、彼の指先は点字の突起を、ゆる、と撫でていました。
その瞬間、私はなぜか脚の間に力を入れてしまいました。目でも点字が読めるのに。それなのに、彼にこうして触れられたことが、私を必要以上に動揺させたのです。心臓が、肌を喰い破って暴れ出す。身体に穴が開いた。私は密かに喘ぐ。見破られたら、恥ずかしくて息が止まってしまう。
旦那様の指先が、浮き上がったぷつぷつをゆっくり、ゆっくりと撫でていきます。慎重に、壊さないように。その優しい手つきから私は目が離せませんでした。
丸みに先端が触れるたび、びん、と私の中にも言葉が溢れる。彼の先が感じているであろうぷつぷつを私の先も感じる。あとで口に含んだら、それはきっと、甘い蜜の味がする。
彼の唇が、かすかに笑みました。
「あかいとりことり なぜなぜあかい」
小さい声で旦那様が歌い出す。教授が続きを唱和します。
「あかいみをたべた」
それから、教授は私のほうに笑顔を向けました。
「素敵ね。また書いて読ませてちょうだいな。これなら苺さんと秘密のお話もできそうね」
秘密。私の胸が、眩しい光を含んだようになり、苦しくなる。つい、私は横目で旦那様の整ったお顔を見てしまいました。
その晩、私はお二人に見せた一葉を抱き締めて床に入りました。なぜか、紙はうっすらと湿っておりました。どうして濡れているの。思わず鼻を寄せ、匂いを嗅いでしまいました。そしてその丸みを胸元にそっと滑らせ、かすかなざらつきを肌に刻み付け──
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