第一章 時をさまよう風

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 颯真は頬に落ちる雫で目を開けた。  意識がしっかりしてくるのと同時に、虫の声と、辺りにぽたぽたと落ちる雨の名残の音が耳に入ってきた。  どうやら木に背中を預ける形で気を失っていたらしい。  雨は上がっているらしく、雷の音も聞こえない。  そばに転がった懐中電灯の明かりがぱっと開いた。  前方に白い鳥居が見える。土津神社の駐車場に、颯真はいた。 「やっぱり夢をみていたのか……」  少しほっとして、ずぶ濡れの制服のまま颯真は立ち上がる。 「やっと気が付いたか、腑抜けめ」  声にびくりと肩を震わせる  見ると、傍らで陣羽織姿の青年が呆れたようにこちらを見下ろしていた。さっきまでは現実離れしているように見えたが、今こうして改めて向き合うと、そうでもない。……服装を除いて。 「あの……誰ですか」 「……」  青年は返事の代わりにまたも胡散臭そうに颯真を見る。そういう目で見たいのはこちらのほうだ。とても感じが良いとは言えなかった。 「どこまでも呆けた奴だな。殺されかけたというのに」 「やっぱり俺……殺されかけてたんですか?」 「……」  青年は呆れてものが言えないという風に横を向いてしまった。 「話にならぬ。とんだ阿呆を助けてしまったものだ」  さっきまでの出来事で混乱していたのと、訳が分からないのと、そして相手の馬鹿にした態度で、だんだん腹が立ってきた。 「さっきから何なんですか。腑抜けだとか呆けた奴とか、阿呆とか。失礼じゃないですか」 「本当のことを言ったまでだが?」  青年は腕組みをしながら冷ややかに颯真を見遣る。ぐうの音も出ない。 「へ、変な格好してるくせに!」  相手は眉根を寄せた。そんな顔もどこか色気を感じさせるが、するどく睨まれて颯真はいくらか怯む。それでも勇気を出して続けた。 「だ、だいたい迷惑です。こんなところで刀振り回して、さっきのは何ですか? 敵なんですか」 「あれは、薩長軍の亡霊だ」
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