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颯真は頬に落ちる雫で目を開けた。
意識がしっかりしてくるのと同時に、虫の声と、辺りにぽたぽたと落ちる雨の名残の音が耳に入ってきた。
どうやら木に背中を預ける形で気を失っていたらしい。
雨は上がっているらしく、雷の音も聞こえない。
そばに転がった懐中電灯の明かりがぱっと開いた。
前方に白い鳥居が見える。土津神社の駐車場に、颯真はいた。
「やっぱり夢をみていたのか……」
少しほっとして、ずぶ濡れの制服のまま颯真は立ち上がる。
「やっと気が付いたか、腑抜けめ」
声にびくりと肩を震わせる
見ると、傍らで陣羽織姿の青年が呆れたようにこちらを見下ろしていた。さっきまでは現実離れしているように見えたが、今こうして改めて向き合うと、そうでもない。……服装を除いて。
「あの……誰ですか」
「……」
青年は返事の代わりにまたも胡散臭そうに颯真を見る。そういう目で見たいのはこちらのほうだ。とても感じが良いとは言えなかった。
「どこまでも呆けた奴だな。殺されかけたというのに」
「やっぱり俺……殺されかけてたんですか?」
「……」
青年は呆れてものが言えないという風に横を向いてしまった。
「話にならぬ。とんだ阿呆を助けてしまったものだ」
さっきまでの出来事で混乱していたのと、訳が分からないのと、そして相手の馬鹿にした態度で、だんだん腹が立ってきた。
「さっきから何なんですか。腑抜けだとか呆けた奴とか、阿呆とか。失礼じゃないですか」
「本当のことを言ったまでだが?」
青年は腕組みをしながら冷ややかに颯真を見遣る。ぐうの音も出ない。
「へ、変な格好してるくせに!」
相手は眉根を寄せた。そんな顔もどこか色気を感じさせるが、するどく睨まれて颯真はいくらか怯む。それでも勇気を出して続けた。
「だ、だいたい迷惑です。こんなところで刀振り回して、さっきのは何ですか? 敵なんですか」
「あれは、薩長軍の亡霊だ」
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